Dinah Washington [I Concentrate On You] Mercury MG20604
Dinahが59年に放った「What A Difference A Day Makes」はBillboardの45位まで登るヒットとなりました。
なんだ45位かと思われるかもしれませんが44位がElvis Presleyの「I Need Your Love Tonight」50位がRay Charlesの「What’d I Say」ですから、凄いことだと思っていただきたいです。
因みにこの年の第一位はJohnny Hortonの「The Battle Of New Orleans」。
以下2位にBobby Darinの「Mack The Knife」、3位. Lloyd Priceの「Personality」、4位はFrankie Avalon「Venus」、5位にやっとPaul Anka「Lonely Boy」、6位に再びBobby Darinで「Dream Lover」というすごい年。
ロックンロール旋風が少しポップな曲に風向きを変え、Bobby Darin、Frankie Avalon、Paul Ankaといった若い世代を購買層に狙った歌手・曲がヒットしている時代に45位のヒットをスタンダー曲で成し遂げるというのは凄いことだと思うのです。
ヒットの要素にこの時代既に黒人のR&Bが市民権を得たなかで、甘いストリングスに塗されたこの曲が3連のバラードだったことが挙げられると思います。
3連のバラード、つまりDoo-Wopやロカビリー歌手が唄うバラードで使うリズム、いわゆるロッカ・バラードと言われるバックビートの効いたバラードに近いリズムが彼女のブルース唱法に見事にマッチして、得も言われぬ、アーシィだけれどモダンな雰囲気を醸し出したからだと思います。
この3連こそがスローブルースの3連ののりでポピュラーを歌いこなす彼女の魅力を開花させたのではないでしょうか。
Belford Hendricksによる、この3連のバラードに甘いストリングスとコーラスを塗すアレンジに気を良くしたプロデューサーのClyde Otisは、翌60年から61年の初頭までこの手のアレンジのバラードを彼女に大量に歌わせ録音します。
埋もれているスタンダードの歌曲を、大衆に浸透してきた黒っぽさを強調した彼女の唄で歌わせることで、2匹目の「What A Difference A Day Makes」のヒットを生みだし、彼女をJazzやR&Bの女王ではなくポピュラーシンガーの女王に登りつめさせようとしたわけです。
そんな録音の中からコンパイルして59年、「Unforgettable」(MG20572)のあと60年に「For Lonely Lovers」(MG20614)と共にリリースされたのがこの「I Concentrate On You」です。
Dinah自身もポピュラーシンガーの女王の地位は何よりも望んでいた場所だったのだと思います。
それはこの時期の録音にFrank Sinatraの持ち歌を数多く録音していることでも察しられます。
[Lean Baby」[Time After Time][This Love Of Mine][I’m Fool To Want To You]のような比較的取り上げられることの多い曲の他に「Everybody Loves Somebody」のようなDean Martinがヒットさせる前に、Sinatraが2度も吹き込んみながらヒットさせらなかった曲まで吹き込んでいるのは驚きです。
ポピュラーシンガーの女王の地位に憧れる彼女としてはポピュラーシンガーの帝王であるSinatraに憧れ、彼の歌を唄うというのは自然なことだったのではないでしょうか。
これらの曲の選曲はプロデューサーの意思だけではなく、明らかに彼女の意思があったのではと思います。
ということでこの「I Concentrate On You」はSinatraの57年のシングルチャート60位の曲「Crazy Love」の濃密なカバーで始まります。
この曲はPaul Ankaの58年のヒット曲「Crazy Love」とは同名異曲、Paulの「逃げ出すことのできないほどの狂おしい恋の虜になってしまった想い」をストレートに歌った曲とは違い、まるで若い時の様に狂おしい恋に陥っている自分を楽しんでいる大人の恋の歌。
殆どカバーされることのないこの曲を彼女は58年のNewportのJazzフェスで唄ったあとここでも再録している、つまり2度も録音している訳です。
これは恋多き女の彼女としては、まさにハマリの曲であるとともに、Sinatraフリークであったであろうことを印象づける選曲です。
この曲を含め全曲を、体のなかでリズムをシンコーペートさせ、その上にフレーズを載せて唄う、思い切りタメを利かせて唄い始める場合は、ゴスペルやブルースで云うシャウトつまり唄い出しでひと節軽く唸ってから唄う、フレーズにメリスマを効かせさらに短く切る等ブルースの乗りで唄い切っています。
「Fool That I Am」「I Concentrate On You」、さらに同じ乗りで歌われる「Good Morning Heartache」を聞かされているとどっぷりと彼女の世界に浸っていることの快楽に溺れてしまいます。
この時期台頭してくる新しいR&B、つまりソウルミュージックも彼女のソウル度に拍車をかけたのかもしれません。
本来彼女が影響を与えたR&B唱法が淘汰されたソウルミュージックに、彼女がまた刺激を受け彼女の歌を形作っていくそんな時代だったのだと思います。
そんな彼女の自信が現れているかのようにキュートに笑うポートレートをジャケットにしたこのアルバムがどれだけのセールスを得たかはわかりませんが、この年彼女はBrook Bentonとのデユエットアルバム「The Two Of Us」をリリース、その中に収録されている「A Rockin’ Good Way」をシングルカット、ヒットチャートの75位まで引っ張り上げるのです。
Ray Charlesの「Georgia On My Mind」が同年の78位という事実からするとかなりの健闘ということになります。
2年続けてのヒットもあって彼女もいよいよポップチャートに進出、ここでも女王の位置をつかめると確信したのでしょうが、会社の売り方に問題があったのか彼女の唄が万人のものになるには時期早々だったのか、その後もアルバムを出し続けるのですが、結局その位置に座ることは叶わずに彼女は62年、Mercuryを去りRouletteへと移籍して行くのでした。
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